学校のプールが、避難所の生活用水になる ——当社が水質検査で協力する取り組み

プールに貯められたままの水。この水を災害時の生活用水として活かす取り組みが進んでいます。
災害が起きたとき、「水は使えなくなるもの」と考えていないでしょうか。
飲み水の備蓄は各地で進みましたが、避難生活で本当に足りなくなるのは、トイレを流す水、手を洗う水、衣類を洗う水——いわゆる「生活用水」です。
いま、この課題に対して、学校のプールに貯められた水を活用しようという取り組みが進んでいます。
当社はこの事業に水質検査を提供し、水を使ううえでの安心を担保する立場で協力しています。
災害時に足りなくなるのは、飲み水だけではない
多くの自治体や企業では、大きな地震や風水害での断水に飲料水の備蓄や給水車による対応で備えています。
命をつなぐ最優先の備えとして、飲み水の確保が進んできたことは、間違いなく前進です。
一方で、避難生活が数日、数週間と続くとき、飲み水と同じくらい生活を左右するのが生活用水です。
生活用水とは、飲用以外に使う水のことを指します。
- トイレを流す水
- 手洗い・洗顔・うがいに使う水
- 衣類やタオルを洗う水
- 調理器具や食器を洗う水
- 身体を拭く、清拭するための水
これらは「あとまわしにできるもの」と思われがちですが、そうではありません。
生活用水が絶たれた避難所では、トイレが使えず、手を洗えず、衣類を替えられなくなります。
つまり、生活用水の不足は、そのまま衛生環境の悪化に直結します。
飲み水があるだけでは、避難生活での健康は守りきれないのです。
学校プールの水を「生活用水」に変える取り組み
この課題に対して、身近な場所にある水を見直す動きが出ています。学校のプールです。
避難所に指定されている学校には、ほぼ必ずプールがあり、相当量の水が貯められていますが、これまで災害時の水源として位置づけられることは多くありませんでした。
この水を平時から管理し、災害時に生活用水として使えるようにしようというのが、日本プール安全管理振興協会(JPSA)などが進めている取り組みです。
プールは、水槽自体の保護のために水を一年中貯め続ける必要があり、その貯めている水を生活用水に活用することは非常に理にかなっています。

プールの水を採取する様子。その水がどのような状態にあるのかは、分析して初めて分かります。
取り組みの様子は、次のニュース動画で紹介されています。
出典:tvk News Link【公式】「学校プールの水を災害時の生活用水に活用する取り組み進む」2026年8月29日放送
2026年8月29日放送のtvkのニュースでは、同協会の理事長が次のように述べています。
各地域の避難所にあたる学校には、必ずプールがある。このプールを使って避難生活を快適にできるための生活用水ができないかという取り組み。日本の避難生活を大きく改善していきたい
微生物で水質を保ち、災害時に塩素処理とろ過を行う仕組み
プールの水をそのまま置いておけば、微生物が繁殖し、においも出てきます。
だからこそ、プールの水は「災害時に使えるもの」と考えられてこなかったともいえます。
この取り組みでは平時からプールの水に微生物などを投入し、においや病原菌を除去する方法がとられています。
日常的に水の状態を保っておくという考え方です。
そのうえで、実際に使う段階になったら塩素処理とろ過を行い、生活用水として活用するという流れになります。
この二段構えによって、プールの水が「ただ貯まっている水」から「使える水」に変わります。
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| 汲み上げた水をフィルターに通しているところ | ろ過を経て貯められた水 |
衛生環境の維持が、災害関連死を防ぐ
災害による被害は、建物の倒壊や浸水といった直接的なものだけではありません。
避難生活のなかで体調を崩し、命を落としてしまうケースがあることは、これまでも繰り返し課題として指摘されてきました。
その背景のひとつとして挙げられるのが、避難所の衛生環境です。
生活用水が不足すればトイレの衛生状態が保てず、手洗いも十分にできません。
人が密集する避難所において、こうした状況が感染症のリスクを高めることは、多くの場面で問題視されてきました。
その影響を強く受けるのは、体力に余裕のない方々です。
- 高齢者——トイレを我慢するために水分を控えることで、脱水などのリスクが高まりやすい
- 乳幼児——おむつ替えや清拭に水を必要とし、衛生環境の悪化の影響を受けやすい
- 持病のある方、介助が必要な方——清潔の維持がそのまま健康管理に直結する
災害弱者と呼ばれる方々ほど、生活用水の有無が生活の質と健康を左右します。
飲み水を備えることが命をつなぐ備えだとすれば、生活用水を備えることは、つないだ命を守り続けるための備えだと当社は考えています。
もう一つの地域水源 ——井戸水・湧水をどう活かすか
地域のなかで使える水は、プールだけではありません。もう一つ見直したいのが、井戸水と湧水です。
上水道が断たれた時に使える水源が、神社の敷地や公園、事業所の敷地内など、身近な場所に眠っているケースは少なくありません。

貯めた水を給水タンクから移す作業。「使える水」にするまでには、こうした手順が積み重なります。
ただし、ここで必ず立ち止まって考えなければならないことがあります。
その水が本当に使えるかどうかは、水質を確認して初めて分かるということです。
水は見た目では判断できません。
澄んで見えても、地下水は周辺の土地利用や地質の影響を受けます。
「昔から使っていたから大丈夫」といった経験則で判断することが、いちばん危険です。
安全に使うために、まず水を知る。その工程が欠かせません。
当社は、環境分析・水質検査を専門とする計量証明事業者として、年間およそ45,000検体の分析を行っています。
JPSAが進める「プール貯水と井戸湧水の災害時活用事業」に対して、当社は水質検査を提供し、水を使ううえでの安心を担保する立場で協力しています。
当社が担うのは、その水がどのような状態にあるのかを客観的な分析によって明らかにすることです。
当社がこの活動に参加する理由
- 災害時に水が使用できない、という固定観念を払拭したい。
「断水したら水はない」という前提を受け入れてしまうと、そこで思考が止まります。しかし実際には、地域にはプールがあり、井戸があり、湧水があります。使えるかどうかを確かめておけば、選択肢は一つではなくなります。 - 衛生環境を維持し、被災者の健康を守りたい。
トイレが使え、手が洗え、着替えができる。そうした当たり前の環境を災害時にも保つことが、被災された方々の健康を守ることにつながります。 - 高齢者や乳幼児をはじめとする災害弱者の災害関連死をなくしたい。
避難生活のなかで失われる命を、少しでも減らしたい。水に関わる会社として、水の側から貢献できることがあるのなら、それを果たしたいと考えています。
まとめ
災害時の水を「あらかじめ備蓄しておくもの」から「いま地域にあるものを確かめて使うもの」へ。
この取り組みの本質は、その発想の転換にあります。
プールにも、井戸にも、湧水にも、水はすでにあります。足りなかったのは水そのものではなく、それを使ってよいと判断できる根拠のほうでした。
- 災害時に不足するのは飲み水だけではなく、トイレ・手洗い・洗濯に使う生活用水である
- 生活用水の不足は衛生環境の悪化を招き、高齢者や乳幼児など災害弱者ほど影響が大きい
- 学校プールの水は、平時からの管理と災害時の塩素処理・ろ過で生活用水として活用できる
- 井戸水・湧水も地域の水源となり得るが、安全に使うには水質の確認が前提となる
この取り組みは、まだ始まったばかりです。
横浜市立学校での導入が実現すれば一つの前例になりますが、そこで終わらせたくはありません。学校のプールだけでなく、地域の井戸や湧水にも同じ考え方は広げられます。
どこに、どれだけ使える水があるのか。
それが平時から分かっている地域を、少しずつ増やしていきたいと考えています。
災害時に水で困る人を、一人でも減らしたい。
当社はこれからも、この取り組みが地域に根づいていくよう関わり続けます。
出典:tvk News Link【公式】「学校プールの水を災害時の生活用水に活用する取り組み進む」(2026年8月29日放送)
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